このたびBambinart Galleryでは、金 玄錫(キム ヒョンソク)個展「私に言ってみて」を開催いたします。1990年韓国光州に生まれた金は、日本大学芸術学部写真学科を卒業後、東京藝術大学大学院油画専攻を修了、現在は横須賀を拠点に制作活動をしています。2016年に写真新世紀優秀賞を、2021年に1_Wall審査員奨励賞を受賞したほか、HB.Nezu(2019)、7001gallery(2020)にて個展、HAGIART(2021)、The 5th Floor(2021)ほかにてグループショウを開催しています。
大学院進学後に本格的に絵を描き始めた金は、規則性のない大胆な筆致で絵をつくります。作風からは一見、自由に描くことに重点を置いているように感じられます。しかし絵画のみならず、写真、文章から感じられる日常への眼差しから、嘘偽りのない、虚像が入り込まない自身のリアリティこそがもっとも重要であることがわかります。
「去年の3月に引っ越してきた家には小さい庭があって、最近、その庭に鳥の餌台作って、鳥を待っていた。餌はホームセンターで買ったひまわりの種。
餌台はちょうど部屋の窓から見えるようにしたくて、足の長さの調整や、置く場所の位置を工夫した。
一週間くらい経ったのか、まだ鳥が来る気配はなく、待ち続けることしかできないということにがっかりしていた。
餌台が問題なのか、場所が問題なのか、
鳥の声は近くから聞こえて来るが、こっちへ近づいて来ることはなかった。
3泊4日で知床へ行ってきた。その宿には朝ご飯を食べる部屋の窓から鳥の餌台が見えて、たくさんの鳥が来ていた。羨ましいと思った。
宿の人に鳥を呼び寄せる方法を聞いてみたが、待っていたらきっと来るよと言ってくれるだけだった。
知床は思っていたより寒くなかった。
帰ってきた時、家の餌台のひまわりの種は減っておらず、みかんなど果物のようなのも置いた方がいいと親友が教えてくれたが、なぜか、気乗りしなかった。
次の日の朝、朝ご飯におしるこを食べていたら、一羽のシジュウカラが餌台にやってきた。
きたよ!僕は妻に人差し指で餌台を差し、妻と僕は喜んだ。
僕はまた唇に人差し指を当てて、妻を見ながら'シー'と言った。
それから、庭の餌台には二羽のシジュウカラが朝から昼ごろまで出入りするようになった。
雨が2回くらい降った。
庭に普段より大きなものが動く音がして、窓の方に行ってみた。
鳩の一羽が庭の土にくちばしでほじくっていた。僕は鳩のことを好きではなかったので、窓を勢いよく開けて、縁側の上で腕を大きく回した。鳩は少し僕から離れたが、相変わらず、何もなかったかのようにまた土をくちばしでほじくりつづけた。僕はスリッパを履き鳩の方へ走るような動きをとった。やっと鳩は飛び、5メートル離れた木の枝の上に上がった。それ以上鳩を追い払うことはできなかった。
それから、鳩は家の庭によく出入りするようになった。餌台には興味がないようで、上に登ったりはしなかったが、鳩が来ているとシジュウカラは来ないような気がして、鳩が現れる度に僕は外に出て、鳩を追い払った。
'人間のエゴってすごいですよね'と苦笑いをしながら、この話を昨日友人に話した。
友人は黙々ご飯を食べ続けていた。
プーチンがウクライナ東部への派兵を命令した。」(金 玄錫)