このたびBambinart Galleryでは、若いアーティストを紹介する企画シリーズ「Emerging Artists 2016」を開催いたします。本展では、1989年から92年に生まれた4名のアーティスト、磯村暖、木村有輝子、多田恋一朗、花沢忍による絵画作品を紹介。それぞれスタイルは異なりますが、具象画で人物(あるいは人物に近似した生物)が描かれており、大胆なタッチと構成、特徴的な形象や色彩から、造形的には、プリミティブ・アートや表現主義、新即物主義(New Objectivity)、新表現主義(Neo Expressionism, New Painting)、Bad Paintingなどを、国内の動向ではフュウザン会を思い起こさせます。
現在、表現主義からおおよそ110年(1905年にドレスデンでブリュッケ結成)、またフュウザン会からは約100年(1912年に第1回展を開催)、メンバーの斉藤与里(1885生)、岸田劉生(1891生)、萬鉄五郎(1885生)らから、本展のアーティストの誕生まではほぼ100年が経ています。時代的背景が大きく異なる中で、タッチや構成、形象、色彩などの特徴を共有することは、マンネリズムで片付けられず、それらは思弁によって到達する普遍的な表現手法の一つであるのかもしれません。
現代社会は、少なからず発展していくであろうという前提が失われ、不確実であり、複雑化が進行しています。本展において、作品制作に係るアーティストの衝動として、死生観、善悪、性愛、神話性、詩情など、さまざまな立脚点が窺えますが、安直に社会問題に対するポリティカルなメッセージを込めることはなく、また冷笑的でもありません。真摯に社会との関係を模索し、社会に目を向け特質を見極め、どのようにコミュニケートしていくのかを慎重に探っています。絵画は幾度となく芸術のなかでの役割を終えたと指摘を受けていますが、彼らによって描かれた絵画は未だ私たちを魅了して止みません。 現代のアーティストによる具象表現をどうぞご高覧ください。
【参加アーティスト】
磯村暖(いそむら・だん):
「生前の意識や行動が反映された魂が、死後この世の個体から離れ別の世界で集合する。この類いの考えには死への恐怖を和らげる機能があり、同時に生前の行動に規範意識をもたらす役割もあった。しかし現代において、既存の善悪の基準では判断できない領域は広く、天国と地獄の境は曖昧になる。タイの (ワットパイロンウワ)という寺にある地獄村の餓鬼の彫刻群は、罪を犯して餓鬼になり永遠に罰せられることを表しているが、それもまたごく自然のことだと思わせてくれる。 私達は変革する社会を見つめる為に新しい倫理観を築く準備が出来ている。Let's always be stupid であり、let painting always be stupid, forever!」
1992年東京都生まれ、東京藝術大学油画専攻4年在籍、ケアンズ(オーストラリア)留学(2005-2007)、ミス藝大グランプリ受賞(2013)、タイ国立シラパコーン大学にて滞在制作(2014)、上野芸友賞受賞(2015)
木村有輝子(きむら・ゆきこ):
「心の琴線に触れる出来事やふとした瞬間によぎる感情。それは自らの病から起こる幻覚についての出来事だったり、人間が持っている性と愛との関係だったり。その一瞬を物語の一場面として構成し、私の思いと共感できるような絵を描いていきたい」
1990年東京都生まれ、多摩美術大学造形学科造形表現学部油画入学(2013)、多摩美術大学美術学科絵画学科油画転学(2015)、TAMA ART COMPETITION 2014準大賞受賞、TURNER AWARD 2014優秀賞受賞(2014)
多田恋一朗(ただ・こいいちろう):
「幼少期から触れていたサブカルチャーは他者によって作られたフィクションである。しかし自分にとってのリアリティはこのサブカルチャーに含まれる神話性にこそある。つまり社会が指す「現実」と「非現実」と自分にとっての「現実」と「非現実」は別のものということになる。自分の中に在る神話性と自分の脳の外で起きる事象との間にある距離は言語で説明しても縮まることの無い距離である。絵を描くという行為は身体性等を通して自分の中にある神話性及びその他の要素を現実空間にオブジェクトとして提示することが出来る。これは自分と社会を繋げる数少ない手段である」
1992年東京都生まれ、東京藝術大学油画専攻4年在籍、取手アートパス(2012)、ストレンジャーによろしく(2015)ほか参加
花沢忍(はなざわ・しのぶ):
「音が重なって重なって、おおきなおおきな暴力になって、小さいおとが、心臓まで震わせる。私は絵が好きだ。哀しくて、切なくて、優しくて、明るく歌うような、嗚咽を聞かせないこの世界の、この音楽のような そんな絵が好きだ、そんな絵がかけたらと思う。
それは時々、ほんの時々やってくる、天使達の声をきいて、力を借りて、そうしないと私にはできない。私一人の力でとうてい絵なんてかけない。」
1989年神奈川県生まれ、多摩美術大学美術学部絵画学科油画4年在籍、第二回宮本三郎記念デッサン大賞・山本容子賞受賞(2013)、いなぎ苑天井画プロジェクト(2012)